歯科医にとっての自分の虫歯!

 よく人から“歯医者さんが虫歯になったらどうするの?”と聞かれます。

答えは“友達に治療してもらうです。簡単なことですが、実はそこに行き着くまでが大変なのです。というのも、一応自分は歯科治療に携わっており、よほどの難症例でない限り診断や治療法が予想できるからです。

先日右上の親知らずが虫歯で痛くなりました。この虫歯の存在は1年ほど前から気がついており、まだ初期の段階なので少しでも何かの変化があったら治療しようと思い放置しておりました。ただ自分ではかなり気にしていたため歯磨きは念入りに行っているつもりでした。そして突然の痛み。歯の痛みは、厳密にいうともっと細分化されますが簡単にわけると、虫歯によるものと歯肉炎(昔で言う歯槽膿漏)によるものに大別されます。虫歯による痛みは、刺激(冷水、温水や甘味料)などで起こりはじめ、それがかなり進行すると夜寝られないぐらいの拍動痛になってきます。それに対して歯肉炎(歯槽膿漏)の痛みは、物を噛んだりすると違和感や痛みを感じたり噛んでも力が入らないなどの症状から始まり、急性症状では何もしなくても鈍痛となります。虫歯との違いは往々にして寝ているときにはあまり痛くありません。いずれの状態も放置しておくと身体に対してよくありません。

歯が痛くなると必ずといってよいほど鏡で口の中をのぞきます。よく見えないため今回はその痛みの感覚から歯肉炎になったものと予想しておりました。歯肉炎の場合歯ブラシを念入りに行うと症状が徐々に軽減するのですが、今回は治る気配すらありません。虫歯となると歯を削る関係で、知り合いの誰かに頼むしかありません。しかし自分が尊敬する先生は遠方のためすぐに行くことができません。また近くの歯科医院では以前自分のところに通っていた患者さんと出くわし、気まずくなるかもしれない(自分が安心して治療を任せられる先生は大概評判もよいため)という不安があります。あるいは仕事上で様々なことを知ってしまっているため近隣の歯科医院に通うには躊躇してしまう場合も多々あります。あくる日には痛みはさらに激しくなり、顔半分まで達しておりました。おまけに各々の症状の末期を知っているが故、悪い結末ばかりが頭をよぎるのです。結局次の休診日まで我慢して、家から車で2時間のところで開業している信頼できる先輩の先生に診てもったわけですが、結果は歯肉炎の急性症状とそれに伴った虫歯の関連痛だったのです。

私は今回の一件で、当然のことですが、初期の虫歯だからといって放置してはいけないということ、および生半可な知識(今回は自分の口の中を精査できないということによる診断ミスが原因ですが)は気持を不安にさせるということを身をもって体験しました。似たようなことは最近のマスメディアにも言えると思います。病気に関する特集は表現方法が非常に誇張しすぎており変に視聴者を不安に陥れているのではないでしょうか。やはり身体の不調は自己の判断ではなく、実際先生に確認してもらい診断してもらうことが重要であるということを改めて認識させられました。


戻る    ホーム