学校歯科検診、検診する立場では・・・

 学校医の委託を受けている歯科医院では、この時期毎年の恒例行事があります。それは歯科検診。これは学校保健法で定められている定期健康診断で、毎年630日までに実施しなければなりません。検査項目は虫歯、処置歯、喪失歯、要観察歯、歯肉炎、歯の汚れ具合、咬合状態(歯並び)、顎関節症の有無などがあります。毎回歯科検診を終え、生徒たちの状態を保健の先生に伝えるのですが、その時私は検診する方とされる方の検診に対する考え方の違いをいつも感じてしまいます。

学校での検診は、授業の関係で1時間(50分)の間におよそ90100名の生徒の検診をしなくてはなりません。一人あたりの検診時間はわずか30秒弱なのです。しかも検診する環境は非常に悪く、口の中を照らす明かりは非常に暗く、夜枕元で本を読む時に使うライトと変わりありません。特に最近では虫歯が拡大するのを恐れて探針(歯科医院で用いる歯の凹凸等を見る針のようなもの)を使うことを嫌うため、それが虫歯なのか単なる着色なのか判断がつきません。また歯科医院では、強い風を当てて汚れや唾液を飛ばし細かい溝を調べますがそれもできないのです。これを歯科医院で行うとしたら、私の場合検診を行うのに1人あたりおよそ1020分は要します。ですから学校検診の時私は、虫歯が何本あるということよりもその生徒が悪い歯を放置しないで必ず治すように仕向ける環境を作ってあげることに重点を置いています。

私の歯科医院では34月になると不思議と子供の定期健診が増えるのです。親が必ず付き添ってくるのですが(このことは非常によいことなのですが)、そのほとんどの親が学校での歯科検診を意識しているのです。そして67月ごろになると数ヶ月まえに他医院に通っていたという子供が、明らかに前医に不信感を抱いた親と一緒に検診結果を持って訪れます。その子の口の中を確認すると確かに虫歯があります。しかしそれはごく最近出来たばかりと思われる小さな物です。しかも口の中は汚れていて歯茎は非常に腫れています。このことを親に確認してもらうと意表をつかれたという顔をして子供を攻めるのです。そのような親には必ず、虫歯があるという結果を悔やむのではなく、虫歯を作らないようにする環境を如何に親が作るかということを指導します。つまり食べたら磨くを家庭内で徹底させてほしいのです。子供の虫歯は親の責任といっても過言ではありません。歯科検診という場では、よく虫歯ばかりを気にして歯肉炎はどうでもよいという反応を示し、虫歯がなければ安心される方がいます。しかし、虫歯の痛みは初期の段階から現れてきますが、歯肉炎の場合は痛みが出たときはかなり進行しているのです。ですから検診では歯肉炎も気にしてほしいのです。

歯科健診というのはその結果に一喜一憂するのではなく、悪いところを見つけ早期に解決することに意義があります。ですからお子さんたちが学校より持ってくる検診結果を、まるで通知表を見るかのようにするのではなく、まずはかかり付けの先生に相談することに重点をおいて頂きたいと、私は多くの生徒の歯科検診を行いながら思い続けています。


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