歯の治療、そんなに急いでなんになる!


 ある日の電話

電話口“差し歯が取れたんだけどこれから行くから付けてくれない?”

受付“予約制なので○○時にいらしてください”

電話口“ちょっと接着剤で付けてくれればいいのよ!そんなのすぐできるでしょ!患者さんの途切れたちょっとした空き時間(12分位)に診てよ!”

受付“診てみないと判らないので予約をお取りください・・・・”

 皆さんは一回の歯の治療は一体どのくらい時間が掛かると思いますか。例えば先ほどの電話のように取れた差し歯をただつけるということを例に挙げてみます。まず取れた差し歯についている古いセメントの除去、口の中の清掃・乾燥。34分は掛かります。そして接着。接着剤であるセメントを練り歯に付ける(合着)作業に約2分。セメントが固まり安定するまでに合着してから約5分(セメントの種類によっては7分以上)。差し歯から溢れている余剰のセメントの除去に約2分。これだけではありません。患者さんが入れ替わるたびに使ったものや椅子の清掃・消毒。これらすべてを行うと最低15分から20分は必要です。ましてやその歯が崩壊していたり抜歯でしか対処できないとなると・・・。取れたものを後先考えずにアロンアルファーなどで付けるのなら12分でできるかもしれませんが、それでは医療ではありません。もしそのようなことをすれば身体にどのような害があるか計り知れません。

 歯の治療は、身体の病気を自ら治す力を促す生物の分野と差し歯や入れ歯などを作る職人技、それを接着剤などで着けたりする化学の分野、かみ合わせなど歯に掛かる力を考える物理の分野などの総合で成り立っています。先日あるテレビ番組の司会者が、歯の治療はすぐにできるのに歯科医の都合で何回にも分けて治療していると、あたかも知っているかのように言っておりました。このようなことは先ほどの電話での患者さんのような考え方を助長する可能性があるので、公共の場での発言はやめていただきたいです。

 初期の虫歯治療の場合ならたしかに1〜3回ぐらいで終わります。しかし、神経を取るなどの治療を行った場合、歯周炎などを併発している場合、欠損や噛み合わせなどを考慮しなければならなくなった場合などは、口の中全体を考え、身体の状態や治り具合を診ながら治療法を変化させていかなくてはなりません。もちろん患者さんのやる気や協力度も関係します。そしてある程度治癒の見込みが出てきたところで、患者さんにとって一番良いと思われ、しかもその状態を長持ちできるような補綴物(差し歯や入れ歯など)を造っていきます。その後メンテナンス(常に最良の状態を保つように手入れしていくこと)と続きます。治療期間は23年掛かります。

 長年かかって悪くなったものを一夜で治せる訳がありません。また風邪をひいて何時何分に治ると断言できる人はいないですよね。どうしても歯の治療となると削って詰めることや抜歯というイメージが先行し簡単に処置できると思われがちですが、当然のことながら身体の再生能力も関わっています。ですから歯の治療は時間がかかるものなのです。そのために歯科医院は計画診療と予約制になっているのです。


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