オーダーメイド!!


 顔のなかで、口元はその方の雰囲気を表す重要な位置を占めております。とくに笑った時に前歯が汚かったり、無かったりしたのが見えた場合、いくらその方が綺麗に着飾っていても全て台無しです。先日、一週間後に同窓会があるという初めての患者さんが来院され、その時までに綺麗な入れ歯を作って欲しいとの要望でした。出来ないことはないのですが、このように一週間という短期間で、その方にとって本当に自然に見える歯でなおかつ良く噛めるものを作るのは至難の技です。

 洋服を新調する時、既製品を手直しする場合でも2〜3日ぐらいは掛かると思います。もしこれをオーダーメイドした場合、採寸からはじまり試着、手直しなどをする為数週間は掛かりますよね。入れ歯の場合はどうでしょう。同じサイズのものは一つとしてありません。万が一大きさや形が同じであったとしても、きちんと噛めて全て満足できる食事が採れるかは疑問です。

 ここで入れ歯を作る手順を簡単に説明いたします。最初に口の中の型採りをします。次にその型を基に噛み合わせをとる物(咬合床)を作ります。出来上がった咬合床を用いて2回目に来院された時に噛み合わせを採ります。噛み合わせが採れたらいよいよ入れ歯の形をしたもの(仮義歯)が出来上がります。その仮義歯を3回目に来院された時に実際口の中に入れて、大きさや噛み合わせを確認します。問題がなければ、4回目の来院のときにようやく本物の入れ歯をお渡しすることが出来るのです。単純に4日間は必要なのです。ところが実際にはこんなに簡単には進められません。よりぴったりした入れ歯を作るために型採りを2回行ったり、まずは古い入れ歯の修理(修正)などを行い何が問題なのかを探ったりします。また残っている歯の治療や抜歯なども必要となる場合もあります。晴れて入れ歯が出来上がったところで、問題なく噛めるようになるには、数回の調整が必要です。それでは入れ歯を失くした方はどうなるのでしょう。釣りに行ってくしゃみをしたら海に落としてしまったなどのように。このようなケースでは、まず優先することは“とにかく入れ歯を入れる”ということになります。審美性などは二の次で、食事が出来るようにするということに尽きます。そのときは先ほどの手順で割愛できるところは極力行い、ある意味一発勝負で仕上げます。ある程度形になったら大幅な手直しをするのです。ですから全く初めてで何も口の中の情報がない患者さんに、一週間で審美性に優れ、すぐに使い物になる入れ歯をつくるのは不可能なのです。

 最近コンビニ等のように何時でもすぐに欲しいものが手に入る便利な店が増えた為、医療関係も同じものと勘違いをして来院され、無理な要求をされる方が増えていますが、歯科の治療は全てが何一つとして同じものはなく、詰め物や差し歯、入れ歯は完全にオーダーメイドになるのです。それを保健診療の場合、採算割れギリギリの金額で作り、信じられない程の短時間で仕上げているのです。ですから、何か特別な日に合わせて新しい入れ歯や差し歯を作り替えたい場合、最低でも一ヶ月以上時間が掛かるものと考えて来院されることを強く望みます。


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