お口のにおい!

 

歯科治療という仕事していると、よく人から 「他人の口のなかは汚く臭いのに、よく診られますね」 としばしば言われます。また、患者さんから 「ごめんなさい、昼にニンニク料理を食べてしまいました」 と告げられることもあります。マスクの効果、または私の嗅覚が麻痺しているのか、慣れというものは恐ろしいもので、正直いってそれほど苦痛にはなりません。

 これはあくまでも私自身の感覚ですが、“におい”というものは何かを連想させるようです。例えばニンニクの臭さは、餃子やイタリア料理などを連想させてくれるのでそれほどつらくはなく、仕事上諦めがつきます。同じような系統では白米の食べかすで口の中が汚れている人は日本酒のようなにおいがします。つまりお米が口の中の細菌によって発酵しているのです。しかし、私にとってどうしても耐え難いにおいがあります。それは牛乳を飲んでこられた方です。よく、牛乳は臭みを消すと思い込み、口臭予防で飲んでこられる方が居られますが、口を濯がずにいた場合、口の中に残った牛乳も発酵します。牛乳をこぼして、それを拭いた雑巾を洗わずに干すとどのようなにおいになるかご存知の方も多いと思います。口の中がそのようなにおいで充満するのです。

 口臭には生理的口臭と病的口臭、そして特定の食品摂取による口臭があります。前者の2項目については、かかりつけの先生に相談しなければ解決しませんが、食品摂取によるものは自分で対処できる口臭です。食べかすが歯垢となって口の中に滞在すると、口の中の細菌がそれを栄養源として急激に増殖していきます。食事をしたあと歯ブラシをしないでいると、マッタリとした感覚になるのはそのためです。それはまた口臭へとつながるのです。歯磨きを行い、口に中は歯磨き粉のにおいでさわやかなのに、数時間経つと何も食べたり飲んだりしていないのに口の中が気持ち悪くなる経験をされた方は多いと思います。それは磨き残し、つまり歯垢が残っているためで、口の中の細菌の数はその歯垢のおかげでより増殖しているからです。たしかに歯磨き粉などは口の中の細菌の数を一時的に減少させますが、歯垢の中や下に隠れた細菌まで減らすことはできません。口臭も同じく一時的におさまりますが、また復活してきます。口臭を防ぐには歯垢をできるだけ残さないことなのです。

 私の歯科医院でも、口臭を気にして来院される方が数多くいられます。しかもその多くの方は歯磨き粉にこだわり、自分の歯磨き方法は完璧と思われています。試しに口の中を赤く染め出してみるのですが、歯面の多くに取り残し、つまり歯垢が見受けられます。このとき私は、歯垢の中の細菌の増殖する速度についての説明と歯磨き粉にこだわらずにとにかく歯垢を残さないような磨き方を指導します。

 歯ブラシ方法は人それぞれ異なり、何が正しいかということはその人を診たかかりつけの歯科医師や歯科衛生士にしかわかりません。自己流の歯ブラシ方法は自己満足にしかならず、取り残しの歯垢が歯石となり、知らないうちに歯周炎を悪化させていきます。それはまた口臭の原因ともなります。歯磨きの正しい方法を確認するために歯科医院を訪れるのもよいのではないでしょうか。



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